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ーーしなきゃよかった。
後悔している自分に腹が立つ。
次はちゃんとした恋愛をしたらいいって、自分に納得したのに。
どんな関係でも、須藤さんが欲しいって思ったくせに。
結局あの指輪を見たら……そう思っている自分が格好悪い。
須藤さんを責めることなんかできないし、そのつもりもない。
泣くつもりもないし、涙なんか出てこない。
……ただ、明日の朝、顔を合わせるのが気まずくて。
昨日した、男と女。
その現実が、明日からの仕事に影響してしまう。
公私混同はしたくないのに。
須藤さんが素敵で、興味を持ってしまった自分が悪いんだ。
隙があるから、こうなる……言われた通りだ。
危険な香りを纏った自分の身体に嫌悪感を感じて、シャワールームに向かう。
水回りが集約された部屋は、とてつもなく色気がない。
少し乱れた髪と、胸に残る吸い付かれた跡が生々しいあたしが映る鏡。
シャワーを浴びて、小さな冷蔵庫から緑茶を取り出して、ベッドに腰掛ける。
さっきの一部始終を物語る、皺と色の変わった部分のあるシーツ。
「逃げられないんだ……本当に。」
ベッドヘッドの小さな灯りをつけようとしたら、その隣に置かれた見覚えのある形を見つけて。
あたしが決めてと言ってくれた須藤さんが分からない。
明日の朝、別々に出勤したっていいと思うのに。
鍵の形をしていない鍵が、あたしの手に再び戻された。
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