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周りの人から見たら、きっと何も変わっていない今日のあたし。
気付いて欲しくないからありがたいことなんだけど、自分だけ日陰にいる気がしてしまう。
「沢井さーん、ちょっといい?」
まだ月曜の午前なのに、既に疲れた表情の課長があたしのことを呼んだ。
入社して2年経っても慣れない臭い。
整髪料が他の臭いと混じって、あたしの喉元を気持ち悪くする。
「いきなりで申し訳ないんだけど、午後から大阪に出張できる?帰りは明後日になると思うんだけどね。」
「私がですかっ?」
「ほらぁ、担当してもらってる新しい話。関西地区でも一斉に進める動きになってね。西と東が打ち合わせないといけないだろう?」
何度指でずり上げても戻ってくる眼鏡の上から、懇願するようにあたしを見る課長は、怒らせると怖いって噂で。
「向こうの担当の方、どなたですか?午後から伺います。」
ちょうど抱えている仕事を先週末で一段落していて良かった。
午後、一旦自宅に戻って、予定だけど2泊分の荷物を準備する。
7月の大阪、暑そうだなぁ。行ったことないからちょっと楽しみだけど、どうせ行くなら友達と行きたかったな。
でも出張は嫌いじゃないし、担当の人と会うのも少し楽しみだったりして。
同じ会社にいて、顔も知らないままってちょっと寂しいって思うから。
足取りは思いの外軽い。
スーツケースを転がしながら、予約した新幹線に間に合うように駅に向かった。
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