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「それでは、始めましょう。今日は本社から沢井さんにいらしていただきました。
沢井さん、一言お願いします。」
着いてから30分ほどすると、会議が始まった。
「沢井 千紗です。どうぞよろしくお願いします。
早速ですが、企画のコンセプトはご存じの通り……。」
大手食品メーカーで新しいお菓子の企画。
それが、あたしの仕事。
今回の件は、もともと東日本限定にする話だったけど、全国で発売させる方向になったらしく。
まだ序盤の段階でこういう話になって良かった。今ならまだ間に合うことがたくさんある。
会議本番は明日。
今日は顔合わせを含めて簡単に打ち合わせる程度だと聞いてきた通り、比較的短時間で会議が終わった。
定時になって、誰からともなくリラックスした空気になる部内。
急遽設けられたあたしの席は、須藤さんの隣。
パソコンに向かう須藤さんは、濃紺のフレームを掛けている。
その姿もまた、あたしのことをいとも簡単に吸い寄せる。
神様はいろいろと悪戯を仕掛けるのがお好きなのだろうか。
「それでは、行きましょう。」
バッグを持った須藤さんの後をついて行くと、エレベーターの到着を待つ他の人たち。
互いに挨拶を交わして、仕事の話で盛り上がり始めた。
「沢井さんって、独身?」
「お前、聞き方がストレート過ぎるんだよ。セクハラで訴えられるぞ。」
会議で上田さんって紹介された人は、明るくてムードメーカーなんだって分かる。会議の緊張した雰囲気も上田さんの冗談で和らいだから。
「上田、沢井さんに一目惚れしたんだろ?」
須藤さんが言ったその一言で、上田さんが固まっちゃって。
「図星、か。分かりやすいなお前。」
エレベーターが到着して、大きく開けた扉の向こう。
誰よりも早く乗り込んだ須藤さんが、操作盤の前に立っている。
「みんな、早く乗って。」
固まったのは、上田さんとあたしだけじゃなかったみたいだ。
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