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「そうね。何も分かってないタッちゃんは黙ってなさい」
恩師でもあるというお義母様にねめつけられて、達也さんは身を縮めた。
「晋太郎くん、ややこしい娘ですまないねぇ」
父の手を借りて立ち上がった晋太郎さんが首を振る。
「コレのことを相談してもらえない……まだ、信頼してもらえていないオレが悪いんです」
――私がメールに添付した動画には、彼の友人たちが披いた晋太郎さん独身最後の――欧米式にいうバチェラーパーティーの様子が、彼の幼馴染の手によって撮られていた。
大きなケーキに「一撃必中! 早撃ちショットガン!!」とキツい冗談が書かれていたり。
そのケーキを持ってきたピチピチのベビー服を着た女の子が「パパ、頑張ってね」と言いながら、明らかに鼻の下をのばした晋太郎さんの頬にキスをしていたり。
そりゃまぁ、少し苦笑いはしちゃったけれど……晋太郎さんの言うとおり、それは私にとって大きな問題ではなかった。
撮影者である達也さんも酔っ払ってきているのか……。
だんだん酷く揺れはじめた映像から、その幼馴染の声が流れた。
「オマエが……こ~ゆ~結婚の仕方をするなんて思わなかったなぁ~」
お腹の膨らみを意味する動きをしているのだろう。
端っこでチラチラと撮影者の手が動いていた。
「森田先生っていやぁ、東高女子柔道部の鬼コーチ! ダゼ!? そこんとこ五月蝿いだろ。……って、片方だけシッカリしてても……ってワケか」
あっち、男ばかりの家なんだって?
そう言うカメラが、妙に晋太郎さんの表情をクローズアップし始める。
彼の口元の笑みが画面いっぱいに広がって、そして映像が途切れた。
10代ではなく、20代の、それも後半。
それでもまだ「過ち」――とは思いたくないけれど――は、「私自身」ではなくて「家庭の環境」によるものだ、と言われてしまう。
父や弟を、私は想像以上に失望させただろう。
そうして今朝、ホテルのロビーで「森田家 北野家 披露宴会場」という文字を見た時――。
“北野家の娘”として、その場に居ることができなくなって……ホテルの部屋に逃げ込んだのだ。
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