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でも、そんな私の気持ちを、父も弟も、晋太郎さんたちも私自身以上に気付いていたのだと、そして見守っていてくれたのだと今頃気付くなんて……。
「スタッフの皆さんには、ご迷惑をおかけしてすみません」
頭を下げる晋太郎さんの、膝の上で握りしめる拳にそっと手を伸ばす。
そのまま私も傍らに並ぶと頭を下げた。
ふかふかの絨毯を見つめる私の手には、あの日と変わらない温もりが伝わってきていた。
<4>
美知、結婚おめでとう。
母さんも、きっと喜んでいることだと思う。
……。
そうだね……。
これは一回しか言わないから。賢人、お前も良く聞いておきなさい。
母さんが亡くなって……しばらくして私や、何よりお前たちを心配した人たちから、いくつか再婚の話があったことは聞いたことがあると思う。
だが、父さんは断った。断りつづけた。
何故なら……。
母さんが亡くなるまで、私はお前たちのことは何一つ分かっていなかった、と思う。
母さんに似ていると思っていた美知が、意外と私に似て凝り性だったり。
私に似ているとばかり思っていた賢人が、お母さん譲りの手際の良さで洗濯物を片づけているところを見たときは本当にビックリしたなぁ。
美知と賢人との間で、色々なルールや役割分担を話し合って、仕事以外は何も知らない私に家事を教えてくれたりもしたね。
……母さんがいなくても、母さんが遺してくれたものを持ち寄れば、私たち家族は、この家は大丈夫。
独りよがりかもしれないが、私には、そう思えたんだよ。
それが美知を少し迷わせてしまったみたいだが……。
このままでは私に気兼ねして結婚しないんじゃないかと心配していたから、この家から巣立つキッカケをくれた晋太郎君には感謝している。
娘をどうか……くれぐれも宜しく頼むよ。
美知も、賢人も、何処にいっても私の……父さんの自慢の家族だ。
それだけは覚えておいてほしい。
心から、幸せを祈っているよ。
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