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「ここは、全然変わらないな。」
僕が来たのは、胸に挿してある《コイツ》を買った、あの文房具店だ。
5年前に両親の仕事の事情でマンションに引っ越してからは、遠くてなかなか来れなかった。
だけど今日、新しい生活を始めるため駅へと向かっていた途中で、昔通ったこの場所が懐かしくなって寄り道しに来たんだ。
「よい、しょっと。
オバチャ~ン、いる~?」
ガタガタと立て付けの悪い扉をなんとか開けて、
この店のオーナー、通称『オバチャン』を呼び出す。
オバチャン、起きてるかな?
「はいはーい、どなたかしら?
あらいらっしゃい幸人ちゃん!!
まぁ....イイ男になっちゃって!!」
程なくして出てきたオバチャン。
いきなり誉め言葉を大安売りするオバチャンは、あの頃より少しシワと白髪が増えていた。
「はは...そらどうも。
っていうか、オバチャン。
もう高校生になったんだし、
そろそろ『ちゃん』はやめてよ。もぅ。」
「イヤです!
おばちゃんにとって幸人ちゃんは、いつまでもカワイイ幸人ちゃんだからね!」
やれやれっと僕は首を振ったが、
その顔はほんのりと嬉しそうな顔になっていただろう。
「それでどうしたんだい?
なにか買い物かい?」
「ああ、うん。
ちょっと《コイツ》の芯切らしちゃって。」
「おや、それは。」
僕が取り出したのはあの日ここで買ったシャーペン。
あの頃に比べてグリップ部分が削れたり、多少汚れたりしているが、
いままで通り使うにはまったく問題のない状態だ。
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