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戦争ではなく、複数で誰かを追っているらしい。
「待てジャック!」
「………」
地上に2人。
そして、その上空に1人。
「回り込めイリス!」
下から指示を出しながら、追走を続ける若い男。
「うん!」
返事をすると、若干加速して左に向かって飛び去る少女。
距離が少しずつ縮まっている今がチャンスだ。
「ザナ!」
「わかってる、仕掛けるぞトーマ。僕が魔法で牽制する」
本のページを捲り、呪文を唱え始める。
「フレイムアロー!」
炎の矢が真っ直ぐに目標の白い服の男、ジャックへ飛んでいく。
「わあっ!?」
すっ頓狂な声と同時に、とっさに持っていた箒で炎の矢の軌道を反らす。
剣を振りかざしていたトーマはあわてて、剣の軌道を反らす。
「何するの2人ともっ!」
追っていたはずのジャックではなく、空から追跡していたはずのイリスがそこにいた。
「スマン!大丈夫か?」
「怪我はしてないけど…寿命縮んだよ絶対……先回りしてジャックを捕まえたって思ったら魔法が飛んでいくるし、トーマさんはわたしに斬りかかってくるし…」
もう半泣き状態だ。
「何故だ…あの距離で見失うなんてあり得ないと思うんだが…」
ザナが、辺りを見回すが、3人以外の気配はしない。
『ふふふ、こっちも命懸けだ、そう簡単に捕まるワケにはいかないな…それじゃ、また会おう』
まるで3人を嘲笑うように、ジャックの声が森の中にこだまする。
「くっ…」
悔しそうに、剣を鞘に納めるトーマ。
気が付けば、国境の町アネットの門の目の前だった。
「逃げられたか…」
ザナも持っていた本を懐に仕舞う。
追跡はここまでだ。
エルロンド公国の人間である彼らは、通行証がなければ、アルカディア領であるアネットには入れないのだ。
今回は諦めるしかない。
「一応、関所の監査官に説明しに行こう、ジャックはアルカディアに逃亡したって」
「確実に追えなくなるからな、間違いないだろう」
「随分遠くまで追いかけて来ちゃったね…騎士団の人ともはぐれちゃったし」
「サイザー姉さんと一緒だし、大丈夫だろう」
「あの2人が厄介なのに気付いていたのかも知れないな…僕だったらあの2人を同時に相手したくない」
「かもな…んじゃ、関所に行こうか」
ジャックを見失った3人は、報告のために関所へと向かって行った。
妙に明るい満月の夜のことだった。
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