序章~とある日の作り話~

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「今日放課後校庭で遊んで行こうぜ」 「おう!」 「今日の給食なんだっけ?」 「ミリーちゃんのこの消しゴムかわいい!」 ――ガヤガヤと騒がしい教室には、小学生と思われる10歳ほどの子供たちの姿が見える。 「はーい、みんな静かに!席に座って~」 そんな中、教師と見られる一人の女性が壇上に上がった。 「先生ー、おはよー!」 「うん、おはよう。今日もみんな元気そうで何より。じゃあ出席取るよー」 慣れた様子で出席確認をしていく教師と、嬉しそうに返事をする子供達。 「先生、今日の朝のお話はなあに?」 出席確認を終わると、子供の一人が待ちきれないと言った風に手を上げた。 「そうねぇ……じゃあ今日はとっておきのお話をみんなにしてあげる」 「やったー!」 「なになに?」 それはこのクラスの朝の恒例行事のような物であり、簡単に言えばこの教師が子供達にお話をするという単純なものだった。 その内容は絵本の話だったり、漫画の話だったり、昨日見たテレビの話だったり、自分が朝食べたご飯のことだったり、……どれもこれもとても重要な話とは言えない物だった。 しかしその教師の話は何故だか少年少女の好奇心をくすぐる物が多く、誰もがこの朝のお話の時間を心待ちにしていた。 その中でも教師が話す“作り話”は特に評判で、子供たちは食い入るようにその話の世界にのめり込んでしまうのだ。 「なんと今回はみんなのヒーロー“ワルキューレ”のお話!」 「ワルキューレ!知ってる、お父さんとお母さんから聞いたことある!」 「この世界を救ってくれた救世主様たちってばあちゃんが言ってたぞ!」 子供たちの歓声に満足げに頬を緩めながら教師は話を続けた。 「しかもただのワルキューレの話じゃないのよ……」 急に風が教室の窓を叩いた。 それに促されるように教師の顔が外の景色へと向けられた。 「これはね、お父さんもお母さんもおばあちゃんもおじいちゃんもみーんな誰も知らない話!」 数秒の沈黙の後、教師は再び前を向き先ほど同様自信に満ちた表情で口を開くのだ。
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