そこから全ては始まった

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――空間が停止した。 ゼノも光の玉も、周りの景色も気流も動くことは無かった。 その空間で唯一動くことを許されているのはジークただ一人だった。 ゼノは動けない中、自身の体は真っ二つに斬られたのだと思った。 それほどまでに凄まじい断裂が自身を貫いたのだと思った。 だが実際は違った。 ジークのその剣は時空を引き裂く剣。 ゼノの背後の空間には大きなひずみが生じ、奇妙な音を立てていた。 そのひずみに吸い込まれるようにして、光の玉はゆっくりと姿を消した。 ゼノはとにかく魔力を周囲に発散させた。 その効果か、ゆっくりとではあるがその右手が動くようになった。 しかしその瞬間、透明な鎖のような物が彼の体を雁字搦めにした。 「ゼノ・フリーディア。どうやら俺の残った力では、貴様を倒すことは出来ないようだ」 「そうかい……それは残念だったね」 ゼノの体は動くことは出来なかったが、その口は動かすことが出来た。 「だがタダで貴様を帰すつもりもない。今より貴様を別空間へと飛ばす」 「まじか。もしかして俺ずーっとこのまんまの感じかい?」 そんな悠々としたゼノの様子にジークは困ったように小さく息を吐き出した。 「いや、今より十年の間が限界のようだ」 「十年かー。結構長いな。でも俺、十年経ったらまたこの世界破壊すると思うぞ」 この時、ジークは微かに笑みを浮かべた。 「十年後と言えば俺の弟がちょうど俺くらいになっているころだ」 「へー、そんなに優秀なのかい?」 「いや、才能に関しては俺より劣るだろうな」 「そりゃそうだろうな。お前を超えられるヤツなんていやしねーだろうよ、人間では」 「特別強い訳でも、才能がある訳でもない。だけど俺を超えられるのはアイツだけだ……ウルしかいない」 「くっははは!んじゃ十年後に俺はその弟と戦うとしよーか。楽しみが増えるねぇ」 「ゼノ・フリーディア。あまりこの世界を甘く見るなよ」 最後にジークはそう言い放った。 そしてゼノの体はその歪みの中へと消え去っていった。 ―― こうして一人の青年の死とともに、世界の脅威は十年後へと移された。 ――それが十年前の戦いの真相だった。
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