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「んまあ、そんなところかなー。十年前のあの戦いは」
ゼノの話を食い入るように聞いていたウルと、どうしていいかわからないと言ったような顔をしているミア。
「で、別空間に転送させられた俺はずーっとやることなくて暇だったんだけどよ。どういう訳だかあの空間は死後の世界に近かったのかねー。たまに迷い込んでくるんだよ、霊体ってやつが。セシルやバリファとはそこで出会った。んで、気に入ったからスカウトってやつかな。魔力だけは有り余ってたからアイツらの肉体を生成してやって仲間になってもらった」
「ついでに今の番人達のほとんどもその十年の間に生成したヤツら。俺の魔力ってある意味特殊だからよ、結果として自我を持つヤツラをたくさん生み出しちまった。暇だったし、魔力どんどんたまってく一方だからあんな風に使うしかなかったんだよねー。まあ、みんな気の良いヤツらだから悪くは思ってないけど」
「んで、ようやく十年経ったってことでアイツの能力も切れて俺たちはこの世界に戻ってきたって訳だ」
ゼノがそう言い終わると、ウルは若干震える声で小さく呟いた。
「あ、兄が……隙を見せた時にあったその人形っていうのは……」
「ふん?そうそうこれだよ。よくわからんが何かの拍子に俺と一緒に転送されてたらしい」
ゼノはそう言ってウルへ何かを投げる。
ウルはそれを受け取ると、ジッと見つめた。
「やっぱり……」
自分があの日に渡した人形。これに気を取られたから兄であるジークは……。
そんなウルの感情をわかっているのか、ゼノはニヤリと笑いながら語りかける。
「まあ、確かにあの隙が無かったら俺は死んでたかもな。でも俺だってタダで死ぬわけじゃあないさ。少なくともアイツを道連れにぐらいは出来るっての」
それでも浮かない表情を浮かべるウルに、ゼノは一度ため息を吐き出した。
「それは確かにアイツの弱さだったのかもしれない。だが同時に強さでもあった。だからそこをお前が悔やむのはお門違いじゃねーの?って殺した張本人が言えることじゃねーか、ははっ」
ウルは驚いたような表情でゼノを見つめる。
「でもよ、あれだ。これでも一応お前なんかより数百倍は長く生きてきてるし。まっ、人生の先輩からの言うことは素直に聞いとけ」
ゼノはそう言って、気の抜けた表情でいつもの笑みを浮かべた。
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