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ウルはその時のゼノの顔を見て、なんとなくだがこの男が断罪の番人の頂点に立っている理由を感じ取った。
もちろん彼の行いが正しいとは決して思わない。
しかし、意図せずとも番人達を率いるその魅力。
いわばカリスマ性というものを、この男は持っている。
――兄の最期の戦いの相手が、ゼノさんできっと良かったんだ。
それと同時に何とか彼を説得し、世界崩壊の危機を回避しようと考えていた自身の甘さを痛感した。
仮にゼノという男がこの世界に恨みを持ち、それが彼の戦う理由となっていれば……。
ウルにとってはそちらの方がずっと良かった。
理由を持つ破壊であれば、その理由を解消する事が出来れば問題は解決する。
しかし違った。このゼノという男はそうではない。
――こりゃどうしたもんかね。全く勝てる気がしないんですけど。
ウルはいずれ戦うだろう世界の脅威に対し、憂いにも似た苦笑いを浮かべてしまった。
「んで、あとはたぶんお前が考えている通り。俺はアイツの言葉を思い出して目の前で今にも死にそうになっているお前がその弟だと知った。もちろんアイツがあれだけ言ったんだ。すげぇ力を秘めてるかもしれないだろ?このまま死んでもつまらないと思った」
ゼノは未だ眠そうな目で、少し面倒そうに話を続ける。
「でも知ってのとおり俺って破壊するのは得意だけど治療なんて能力はないだろ。俺は他人の体は生成できないしなー」
ここで彼が言ったことに補足をしておけば、セシルやバリファなどの幹部たちの体を生成する場合は、彼らの霊魂を自らに取り入れ、自身の体の一部として納めることにより、その体を生成する事を可能にした。
平たく言えば、幹部たちはゼノの体の一部を借りており、その器の中に霊魂だけが入り込んでいる状態である。つまりは自我を持つ分身のような物である。
本来ウルの場合も完全に死んだ後に、その霊魂をゼノが取り込み体を生成させれば簡単だった。
しかしゼノは知っていた。
自身の魔力によって生成された者は、決して自身と戦おうとはしないことを。
ゼノが消えればもちろんその魔力によって作り出された分身の体も消える。本能的に彼らはゼノへの戦闘意欲を失う。
ウルが自身を超えるかもしれないという可能性を残すためには、彼を完全なまま生かさなければならなかった。
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