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某古都の一角、日本ならどこにでもあるタイプのアパートメントの一室。
台所のモザイクガラスの窓から部屋の外に人影が見えたあと、玄関のドアノブが数回ガタガタと振るえた。
ドアノブはすぐに静かになり、続いてノック音が5・6回鳴った。
しかしいつまで待っても開かないドアを諦めたのか、外の人物のものであろう足音は遠ざかっていった。
次の瞬間、居間の窓が勢い良く開き、この家の主が帰ってきた。
「ただいま。あ……起きてたのか、何でドア開けてくれない、の……?」
二階の窓枠に片足を掛けたまま、鬼の形相の妻に向かってフェードアウトしながら話し掛けた男。
平々平八郎(ヒラダイラ ヘイハチロウ)――彼がこの物語の主人公である。
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