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「別に捨てなくてもいいよ、研げばまだ使えるだろう。
と言うか、包丁ってのは切れ味が落ちないように定期的に研ぎながら使う物だよ」
「トグって?」
平八郎が説明したが円香はまだよく分からないという顔をした。
「研ぎ石って石に水を掛けて、そこに刃の表面を軽く斜めに押し当てて一定方向に擦る。
そうすることで刃の所に新たに鋭い部分が出来てまた切れ味が復活する。仕組みとしては鉛筆を小刀で削って尖らせるのに似ているかな」
「ふーん……?」
いまいち理解していない様子の円香。彼女はわりと現代っ子なのだった。
「どんな道具でも正しい知識と使い方、それにメンテナンスを怠ると長くは持たないよ。
まあ、今度俺がやって見せてやるよ。それより今日はもう遅いから早く寝な」
そう言われると円香は素直にはぁーいと返事をして寝室へと去って行った。
「ふぅ……」
一段落ついて平八郎が時計を見ると、なんと午前4時30分を指していた。
なんだかんだとやっているうちにそんな時間になっていたらしい。
明日の出勤は午前7時、今からシャワーを浴びて寝間着に着替えるとほとんど寝られない。
「あーあ、また外回りの余った時間で昼寝するパターンかな……」
平八郎は寝ないことにした。
ちなみに昼寝と言っても車の中で、シートを倒して数分の仮眠をとるだけである。
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