崖に棲む猫

3/4
前へ
/4ページ
次へ
・・・戻りなよ、 自分の場所に。 死にたい理由など分からないがアンタ、 戻れる場所があるうちはここへ来るべきじゃない・・・ オレの鳴き声の意味などわからないだろうが、女の目から迷いが消えた。 もう、 大丈夫だな。 女がゆっくりとバスに乗り込んでいくのを横目に、オレは大きなあくびをした。 適当にオバちゃんをからかった後、 オレはねぐらに戻ることにした。 崖の近く、 住みかまであと少しってところでオレは足を止めた。 暗い空を見上げると、 何かがふよふよ飛んでいるのが見えた。 崖の向こうの海からぼんやりとした光を放ちながら浮き上がってきていた。頼りない動きで、 のろのろと。 ソイツはしばらくあたりを漂った後、 オレのほうへ近付いてきた。 誰かがオレの中に入ってくるのを感じる・・・そうか、今日はフタリいたんだな・・・ 女の方にかまっている間にもうヒトリ来てたのか。 ソイツの魂は後悔と悲しみで真っ黒になっていた。オレ、 また黒くなっちゃうな。 目の前まできたソイツを、 オレはぱくんと飲み込んだ。暗い感情がオレの中に入り込んでくる。 ・・・そうか、 アンタ相当辛い目を見て来たんだな。 しばらくオレの中で休んで、 できるだけ早く成仏しなよ・・・ オレの中のソイツに語りかけると、 オレは住みかの岩穴へ入り込んだ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加