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「なんで泣いてるのっ!?」
私の涙を見てあたふたしている。
「総司……よかったぁ…」
総司は私の涙を手で拭った。
「どんなやり取りがあったかは知らないけど…あの状態で斬っては駄目だよ…」
…あの状態では総司はただの人斬りになってしまう…
「僕の…せいかな…?……ごめんね。」
「ううん…」
総司はごめんねと言って私を軽く抱きしめた。
そして私の頭にポンと手を乗っけて、体を男に向けた。
「…さて、こいつ…どーするかな」
男の傷からまだ血がたれている。出血で立っているのが辛かったのだろう。男は木に背中をあずけ、座っている。
「…」
額に汗をかき、黙って私たちの様子をうかがっている。
「奉行所に連れて行く?」
「う~ん…どうしようか…近藤さんたちに言わなくていいのかな…」
私たちが悩んでいる時だった。
「以蔵さん」
後ろから声がした。
振り返るとそこには大柄な男が立っていた。
…こいつ…いつの間に…
私も総司も気配にはかなり敏感なのだがこいつには気づけなかった。
「…新兵衛…」
しんべえ?それに総司はこの男の事を岡田と呼んでいたけど…なんか聞いたことあるような…
「以蔵さん…こりゃあ派手にやられちょるのぅ…あんた何者だ?以蔵さんに怪我ぁ負わせるモンなんてそうそういないからのぅ」
岡田の怪我を見て楽しそうに新兵衛?は言った。
「…何楽しそうに言ってんだ。こっちはもう血が足りなくて意識がもうろうとしてんだよ」
息を荒らしながら岡田は言った。
「そーゆぅことじゃき。今日は勘弁してほしいと」
「…次は覚えとけ」
岡田が総司を睨みつけて言ったが…
「その格好で言っても迫力ないきに。以蔵さん」
新兵衛に軽く担がれている状態になっている。
確かにこんな状態で睨まれても迫力どころかむしろ笑いそうになる。
2人はどこかに行ってしまった。
「…追わなくて良かったの?」
総司はコクンと頷き、私に手をさしのべた。
「…凛、帰ろうか」
「うん」
幼い頃のように私たちは手をつないで帰った。
この時…私は自分の手が震えていることを総司に気付かれまいと必死に耐えていた。
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