岡田以蔵

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「全く…土方さんは人使いが荒いよ」 凛はため息をもらし僕に愚痴を言う。 「まぁ確かに人使い荒いけど女の子の凛の方が街を動きやすいよ」 「そうかもしれないけどさ…」 と凛は自分の着ている着物を見る。 「なんでこんな女物の着物着なきゃいけない訳?」 淡い桃色の生地に花の刺繍がはいった着物に、薄い黄色の帯をして赤い髪飾りをつけている。 凛は普段、女物の着物を着ないで袴を着ている。 土方さんの知り合い(元愛人?)の着物屋で凛の体の大きさに合わせて特注で作ってもらっている。 店の気配りで色や柄などをなるべく女の子らしくして作ってくれていて、本人も気に入ってずっとその店の袴を着ている。 なので凛は普段女物の着物を着ない。 むしろ幼い頃以来見たことがない。 「あ~動き難いっ!今すぐ着替えたい」 「凛…本来ならきみはこういう格好をしなきゃいけないんだよ?」 「だけどさぁ…ずっと袴着てたからすっごく窮屈なんだもん…それに動きにくいし。もし攘夷浪士に襲われたらどうするんだし」 「今日くらい刀の事は忘れなよ。もし襲撃されたら僕が凛を護るから大丈夫だよ。」 たまには凛にも普通の女の子として過ごしてもらいたい。 いつもいつも僕等と一緒になって汗だくになるまで稽古をしていた。 手のひらには剣術を習う者なら必ずできる無数の胼胝がある。 普通の女の子ならそんなのできなかったはずなのに… 本人は気にしていないようだからいいけど…年頃の女の子がそれでいいのだろうか… 「この辺りだよね?役人が斬られてた場所って…」 「うん。」 僕等は周囲を詮索してみた。 「ん…やっぱりなんにも残ってないね」 凛は手のひらについた汚れを叩きながら草村を詮索している僕を見下ろす。 「うん…もし残っていたとしても奉行所の人達が見つけてるだろうしね」 そろそろ帰ろうかと僕が凛に言ったその時だった。 「ぎゃっ……」 『!?』 かすかだが近くで悲鳴のような声が聞こえた。 「総司…」 「凛はここで待ってて。僕が見てくる」 僕は凛を置いて声が聞こえた方へ走って行った。
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