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総司は最初、今みたいに口調が軟らかくなかった。
今でもたまに口調がキツいときはあるが、昔のアイツは悪戯ばかりしていた生意気な子供だった。
総司が試衛館に来たのは9歳の時だった。
あいつはいつもいつも悪戯ばかりしていてそのたびにトシに怒られていた。
「惣次郎っ!!またお前かっ!!」
トシが1人の小さな子供を追いかけ、廊下を走り回る。
「はっ!!捕まえられるもんなら捕まえてみやがれ」
べーっと舌を出しトシを挑発する。
「こンのクソガキっっ!!」
「俺がクソガキならあんたはクソオヤジだな」
ケラケラと笑いながら身軽な体を巧く使いトシから逃げる。
惣次郎は親元を離れた寂しさから悪戯や悪態をついていた。
俺はできるだけ惣次郎のそばにいた。
「なんで俺なんかにかまうんだよ。あっちに行け」
最初、惣次郎は心を開く気はなかった。
それでも俺は諦めずに惣次郎をかまいにいった。
半年以上経ってようやくちゃんと話すようになってくれた。
「近藤先生っ!!」
さらに1年経つと、惣次郎はよく俺に懐いてくれた。
この頃から少し落ち着いてきて、さらに剣術の才能を発揮した。
だが、惣次郎がもっとも成長した時はあの時だった。
-俺が凛を連れてきた時-
あの時の惣次郎の瞳は何か強い意志を秘めていた。その時から惣次郎は変わった。
凛の世話をよく焼き、気づかいまでするようになった。
その頃から惣次郎は目上の人間には敬語を使うようになり、周囲に明るく振る舞っていた。
俺はそれが喜ばしかったが少し寂しい気持ちにもなった。
小さかった惣次郎が急に大きくなって、俺からだんだん離れていってしまうような気がした。
これが親の気持ちなのかと実感したときは自分も年をとったなと思い苦笑したが…
誰かのために変われて、生きる事はすごい事だと思う。
だが、いくら変わったとしても根本的なモノは変わらない。
惣次郎は信用している人間以外にはめったに気を緩めない。そして、キレるとなだめるのが大変で、酷い時は我を忘れて暴れる時もあった。
総司と名を改めた今でもそれは変わらず、最近は穏やかな状態が続いているがもしも総司が大切にしているものだとか…或いは、凛に何かあったとしたら。その時は俺にもどうなるかわからない。そしてそんな総司を止められる人間が果たしているのだろうか…
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