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手が触れる直前、男達も流石に気が付いたのか、大きくなった鈴の音の正体を探すように辺りを見回す。
「なんだ、この音……」
ピアスの男が呟いた。その直後に、近くのビルの屋上から何かを叩き付ける音が響く。
男達が上を見る、女性もオドオドと見上げた。
上空に、何かが飛翔していた。人の形をしているが、人にしてはやけに細長い手足で、頭からは糸のように細い何かが出ている。どうやら、ビルの屋上の音はこの何かがジャンプする為に踏み込んだ時に鳴った音のようだ。
そして、夜空に紛れるような色のそれは、金髪の男のすぐ後ろに着地した。
「な、なんだ……? コイツ……」
動揺した声で金髪の男が言う。丁度女性の位置からでは、落ちてきた何かが金髪の影になっており、確認することができない。だが、鈴の音はより一層大きく聞こえるので、鈴の音の正体だということはすぐに分かった。
と、金髪の男が急に唸り声を上げた。男の背中から何かが生えている。
それは、血液が滴る黒い甲殻に包まれた昆虫のような腕だった。金髪の男がゆっくりとずり落ちて行く、影にいた者の正体が完全に露になった。
二足で立つ昆虫。まさに、昆虫人間そのものだった。全身が腕と同じ甲殻で包まれ、隙間から筋肉の筋が覗いている。目は複眼で、長い触角が生えている。鈴虫に似た顔だ。羽を左右に細かく震わせ、鈴の音のような、どことなく寂しげな音を出している。
「うあぁぁっ。ば、化け物だっ」
鼻ピアスの男が悲鳴を上げ、逃げ出そうとした。だが、逃げ道がない。先程までの女性の立場になってしまっている。
昆虫人間がチキチキと口を鳴らし、物凄い速さで鼻ピアスの男へと向かう。男は何か意味不明なことを叫び、懐からナイフを取り出している。
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