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「あっ」
一瞬の出来事だった。男がナイフを構える前に、昆虫人間が頭を引きちぎる。断面から血を吹き出して、男の体が倒れた。
昆虫人間は掴んだ頭を道端に投げ捨て、猫背のような姿勢で女性に近づく。あまりの恐怖に女性は気絶していた。
そんな女性を心配する様子を昆虫人間は見せている。しきりに女性の顔を覗き込み、体を優しく揺らしたりしている。
「見つけましたよ。生命体Ci-016」
軽いノイズが混ざった合成音声が頭上から聞こえてきた。昆虫人間が上を確認すると、彼が飛び降りてきたビルの屋上に誰かが立っていた。
白く、やけに機械的なメットとスーツを着込み、素肌は完全に隠れている。胸には直径十センチ程の丸い液晶画面が埋め込まれており、笑っている顔文字が映し出されている。
月をバックに立つ彼は、まるでテレビの中のヒーローのような出で立ちだった。
「捕獲しなさい」
彼が、そう言いながら片手を上げた。それを合図に、奥から数十人、同じ格好をした者が現れる。唯一の違いは、胸に液晶画面が取り付けられていないことだ。
彼らは躊躇もなく次々にビルから飛び降りる。だが、全員が重力を無視しているかのように、ゆっくりと、音を立てずに着地する。最後に、液晶画面付きが降りたが、彼も着地音は立たなかった。
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