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闇を駆ける昆虫人間。次々に建物の間をすり抜け、追っ手を撒く。
逃げついた先は、ビルに囲まれた小さな空き地だった。中心に笑顔の顔文字の佐藤が立っている。
「はい、ゲームオーバーです。大人しく研究所に帰りましょう」
その言葉に反応することなく、昆虫人間は佐藤へ突っ込んだ。その速さに反応し、佐藤は軽々と右腕で突進を受け流す。
勢い余って、昆虫人間は滑り込むように倒れた。その上から佐藤が足で踏みつける。
「捕獲完了。本部に連絡……」
メットに付いた通話のボタンを押そうとするが、右腕に違和感を覚え、顔をそちらへ向ける。
佐藤の右腕は消失していた。
「な、ななななっ。わわわ私のののの」
合成音声のノイズが酷くなる。顔文字が泣き顔に変わった。
昆虫人間は、消失した先の右腕を握っていた。おそらく、受け流された時に引き千切ったのだろうか。表情の変わらない顔が、どことなく「してやった」と言っているように見える。
「このっ、このクソ虫があああっ」
真っ赤な怒った顔文字が液晶画面に映し出される。合成音声のノイズは完全に消えた。
昆虫人間を踏みつける足を退かし、そのまま腹部を蹴り上げる。緑色の血液を散らしながら、昆虫人間はビルの壁まで吹っ飛んだ。
佐藤は、間髪入れずに吹き飛んだ先まで移動すると、次は顔面に蹴りを入れた。
ビルの壁を突き破るどころか、完全にビルを貫通し、昆虫人間はその先の表通りにある噴水に激突する。
「さ、佐藤さんっ。一体何があったんですか」
遅れて、追っ手たちが登場する。佐藤の右腕を見るや否や、一斉に騒ぎ出す。
「うるせぇよ。それより勢い余って向こうまで貫通させちまった。向こうは確か人通りが多かったよな……。チッ、面倒だな」
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