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瓦礫の山から何かが飛び出してきた。激しい鈴の音。昆虫人間だ。
昆虫人間は、佐藤の前に立ちふさがる。野次馬達は急な展開に唖然としていた。
「はっ、そんなに人間が大事か。このクソ虫がよっ」
右手のガトリング砲が火を噴く。昆虫人間は野次馬達に当たらないように、精一杯手を広げて庇うだけだ。
流石に全員は守りきれていないようで、野次馬達が次々に断末魔を上げる。悲鳴や叫び声にガトリング砲の乱射音がミックスされ、音だけで大体の状況が理解できる程だ。
昆虫人間の甲殻の間から血が流れる。銃弾で甲殻の隙間の筋肉が傷ついているようだ。
と、先程まで鬼のような勢いだったガトリング砲が落ち着きを取り戻した。弾切れだろうか。
だが、佐藤の液晶には笑顔が映し出されていた。
「クソ虫、後ろを見てみな」
言われるがままに後ろを向く昆虫人間。
地獄だった。
蜂の巣のように穴だらけになった人、頭が欠けて脳が丸出しになった人、いたるところに飛び散った誰かの体のパーツ、そして、それを包み込む大量の血液。
この地獄を取り囲むように局員達が立っていた。全員が佐藤と同じようなガトリング砲を抱えている。
「局員達が囲んでいたってことだ。俺だけの銃弾を止めても結局は皆死ぬ運命だったのさ」
惨劇を目の当たりにした昆虫人間は、崩れ落ちるようにその場に座り込む。羽をすり合わせて鳴らす鈴の音が、更に悲しげになったように思えた。
局員二人が昆虫人間を取り囲んだ。メットの右側のボタンを押し、本部と連絡している。
「それではさようなら。生命体Ci-016」
佐藤が呟いた。
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