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そこは深い森の中、空に覆いかぶさるようにして出来た、天然の緑色の天井はところどころ隙間があり、そこから僅かな光が差し込んでいる。
大きな樹木が連立している森では、当然足元も悪い。
巨大な樹木は巨大な根を張っているからだ。
高低差の激しい段差のように、行くものの足を疲弊させるその根は、何処までも終わりが無いかのように続いている。
まるでこの森に出口は無いといっているかのようだ。
「ふ~ふふん、ふ~ふふん、ふんっふんっふ~ん♪」
しかし、常人ならば十数分もすれば疲れ果てそうなその道を、鼻歌交じりで歩くものがいる。
水色の髪を持つ女性だ。
透き通るような白い肌に、均整の取れたプロポーション。
少し高めの身長に、その長い足が映える。
聞こえてくる声も、まるで小鳥のさえずりのように心地よい。
そんな美を体現したかのような存在の彼女は、この世界でも滅多にいない妖精族、そのなかのエルフと呼ばれるものである。
「さてさて、ポルック村まであと少しってところかしらね。・・・・温泉で有名な村、あー楽しみだわっ♪」
彼女、エルフ族のエリシア・フィリオドールの目的は単純明快である。
ここ、迷わせの森の最奥にあるといわれるポルック村、そこで沸き続けている温泉に入ることだ。
元々彼女は旅人であり、世界のあらゆるところを回り、面白そうな噂を見つけては其処へ寄り、金が無くなれば依頼を片付け報酬を貰い、そしてまた旅を行うという生活を送っている。
このポルック村の噂は、前回の依頼を共にこなした協力者からもたらされたものだった。
なんでもその者は、その温泉に入ったことにより疲労が全て取れたどころか、何故か身体能力が少し向上したという。
それも目に見える成果としてだ。
そんな話を聞いたならば、如何に危険で険しい森だろうと鼻歌交じりに突っ走るのが彼女、エリシア・フィリオドールである。
「待ってなさいよ、私の温泉!」
まだ存在するかも分からない、そして自分のものではけっして無い温泉に向かって高々と宣言した彼女は、更に速度を上げて先を急ぐのだった。
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