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水場というものは生きるためには絶対に必要だ。
「くっ!死人化がこんなに早いなんて!!」
エリシアは血に染まった温泉を背に、死人の群れに襲われていた。
死人というのは魔物の一種である。
死してなお、己が死んだ事実を受け入れられない死者が魔の力によって蘇ることをいう。
それは決していいことではない。
辺りに漂う魔を取り込んで復活した死人には、生前の記憶など欠片も存在しない。
あるのは死ぬ一瞬に感じた“欲”だけである。
たとえば、死ぬ一瞬に食べ物が食べたいと考えたとしよう。
そいつは死人化すると、それが人間だろうと獣だろうと生きていようと死んでいようと、お構い無しに喰らいついてくる。
それはまるでホラー映画のゾンビそのもの。
そして死人は仲間同士ではお互い関与しないが、これが生者の場合話は変わる。
死人は生者のことがうらやましくて仕方が無いのだ。
元々死んでなお生にしがみついた者達である。
生そのものを体現している生者は、彼等にとってはとても明るく写るのだ。
死人は誘蛾灯に集まる蛾の如く。
よって、死人化した元村人達はエリシアに群がる。
エリシアがそのことに気が付いたのが少し前、その時既に包囲網は完成していた。
死人による、腐った汚物の包囲網が。
「ああもう!踏んだり蹴ったりじゃない!!」
これで普通の旅人だったならば、死人に囲まれどうしようもなくなり、その者も死人の仲間入りをしたことだろう。
しかし、ここに居るのは水の女神の加護を受けたエルフである。
死人には滅法相性が悪かった。
「覚悟しなさい、あんた達!死人になったからには容赦はしないわよ。せいぜい蘇ったことをあの世で後悔するがいいわ!!」
エリシア・フィリオドール。
彼女の後ろには、水で構成された巨大な槍が何十本も浮いていた。
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