夢と現実の境を見失う

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開かれた扉。 玄関に足が踏み入れられる、雨に濡れたその姿。 「…兄…さん…」 声が思わず震える。 冷蔵庫からの冷気が、そのまま私の寒気に変わった。 連(レン)兄さんが、乱暴に閉まる扉を気に留めるふうもなく、ぞんざいに靴を脱ぎ捨てて廊下に上がる。 濡れた黒いジャンパーの肩を払って雫を落とし、もう一方の肩を払おうとして、そこではじめて私に気づいた。 「…何で居るんだよ」 それまで気だるそうだった瞳が、一転して鋭さを帯びる。
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