罪でも罰でもなく、償いに似せた逃避

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耳から携帯を離す気が起きない。規則的に耳を打つ電話の回線音を無心に追いかける。 そうしてみたところで窓を打ちつけてくる雨音は身体を皮膚をすり抜けて内から私を苛み。 歌うような母の声は回線音を詰め込んでも耳の中から押し出されない。 (兄さん…!) 何ひとつ告げてもいないくせに、だから縋るなんてしないから。 ただ呼ぶだけは自分に許した。 それだけがどうにか私に自分を保たせる。
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