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ようやく携帯を耳元から離す。
鼓膜に戻ってきた雨音が、いつからか幸福に慣れてしまっていた自分を気付かせて、反射的に握りしめた携帯が軋んだ音で悲鳴をあげる。
心の中でもう一度兄さんを呼んだ。
『お前がここに、居ればそれでいい』
どうするべきが一番いいかなんて本当はとっくに気づいているのに。
あの頃と同じだ。
兄さんを失いたくない私は狡猾にも素知らぬふりをしている。
血が繋がっている一番遠いこんな自分を、好きになってくれただけで余りあるのに。
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