手を放した。自由になってと。

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『――…大丈夫だから』 私のどこかで何かが欠けていた。 どこの何が欠けたのか分からないほどあまりに大きすぎるもの。 『明伎』 ああ、ならそれは全部と言うんじゃないのか。 ベッドで横たわっている頼りないこの身体だけ形を残して、あとの全部を失ったんだ。 (たったひとりの存在で埋められてきた空洞の身体を) 代わりに埋められるものなんて、私は知らない。 兄さんしか知らない。
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