清算の雨に傘はいらない

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そうして誰の目もなくなった数分間のうちに、この部屋から私はいなくなる。 あんなに思い詰めていたのに、一度決意してしまえば今はかえって気が楽にもなっていた。 それでもやっぱり多少の感傷が胸にはあったのか。部屋を出る前に、下がり始めた気温で冷たく外を映す窓になんとなく手を触れていた。 暁から夜へと色を変えた景色が手のひらの向こうに広がっている。 私一人分の沈黙で整然と切り取られた部屋の中であっけなく塗りつぶされる自分が反射した窓に映っていた。
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