心は雨に阻まれて届かなかった

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先を急く足で店を出て、視界を埋め尽くす激しい雨の中へ駆け出した。 胸騒ぎが俺の心臓に喪失を警告している。身体の一部が今にも失われてしまいそうだと。 俺をお前へと引き寄せてまだ確かに繋がっている糸が、きりきりと音を立てて張り詰めている。 …断ち切ろうとしているのか、この糸を。 そうやっていつも、どうして独りで雨に打たれる? ーーー傘を持ってお前を迎えに行くのに、いつもいつもそこに、お前はいないんだ。
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