ただ、君の幸せを願う涙

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「…母さんのところに行くよ」 兄さんの自由を束縛してなお求めてしまう自分が一番怖いから、この水没したアスファルトを先へ進む。 それが間違っているとは思わない私は、兄さんの知っている私ですらなくなったのかもしれない。 「行かせない」 低い、冷え切った鋭い声で、兄さんが言った。 そこにはあの頃見せていた感情を伴わない表情があって。でも。 それなのに兄さんの口が成した言葉は、戻るには遠すぎるところまで来た私をまだ引き留めてくれるもので。
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