「さよなら、明伎」

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光を溜め込んだ瞳がゆらり、揺れる。引き結ばれた唇がふるりと開き、けれどすり抜けたのは声にならないかすかな嗚咽で。 「明伎、」 おいで、と両腕を明伎へと広げた。 言葉に成らない感情を伝えることが難しいなら、言葉である必要はないんだ、明伎。 「…っ」 くしゃ、と顔を歪めて、けれど俺に歩み寄る足が一歩踏み出したところで、躊躇われたのは。 この抱擁が最後になることを目前で怖くなったのだと、分かる。
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