ラッサジの館にて

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  「嫌だわぁ、まだ火薬の匂いが服からとれない。」 燭台の蝋燭の火が淡く揺れて、水鳥の羽根を縫い付けたネワラの上着が、薄暗い部屋の中で、白くぼやけている。 入り口のドアがギリリと鳴って、中背の筋肉質の素肌に、びっしりと黒水鳥の羽根を縫い付けた袖無しを着た、館の主が入ってくる。 廊下からの風も部屋へ迷い込み、それに揺らされた蝋燭の灯りが、館の主のバサラな上着を、暗い紫色に仕立てあげる。 「どうも陸の上は落ち着かないえ。」 きつい南部訛りの館の主ラッサは、腰にぶら下げられた身の丈程の長刀の吊り具を外し、それを壁の刀掛けにガシャリと置いた。 「あの子達、無事に都へ着けるのかしら。」 部屋の中央に置かれたソファーに座る、ネワラの丸い声に導かれ、ラッサは全身を飾る色とりどりの装飾具をじゃらじゃらと鳴らしながら、彼女の白い膝の上に、その陽に焼けた彫りの深い顔を落ち着かせた。 「お前ぁも、面白い女だて、黒丸と橙菱と喧嘩を始めたっちゅうに、あいつ等の事を気にかける。」 ネワラの白い腕が、目の前の丸いテーブルに伸びて、赤い葡萄酒のボトルを握る。 ボトルの脇には、無造作に放り置かれた二枚のカード。 今日までの航海の客、異国の少年と少女が引いたカード。 夜の闇に紛れて、弱々しい動物の鳴き声が聞こえる。 「子猫かえ?」 ネワラの膝から頭をもたげたラッサの黒く短い癖のある髪を、彼女の細い指が優しく撫でた。 「空耳だわぁ。」 ラッサの深い青い目を、長い睫毛の瞼が、ぱちりぱちりと隠した。  
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