ラッサジの館にて

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  白薔薇と赤霧、都での貴族同士の争いは、世捨て人が湖面で三角帆を張るメシャサの海にも、手を伸ばし始めた。 異国の少年と少女は、天使のカードにも悪魔のカードにも臆する事無く都を目指している。 ラッサはむっくりと体を起こし、テーブルの上のカードを手にした。 「わしのカードはどちらえ‥」 ブーツを脱ぎ捨てたラッサの素足に、柔らかくて温かい物が触れた。 「ネワラ、やっぱり猫がいたえ、それもこんなちび助だえ。」 「あらあなた、隠れてなさいって言ったのに。」 ネワラはその白い子猫を抱き上げると、赤い唇をすぼめて、頬を膨らませた。 「何処で拾った? そんな小さい奴、母猫がいなけりゃ上手く育たないえ‥‥」 ネワラと猫を見て、ラッサはこの男には珍しく、どこか寂しげな表情を浮かべた。 「南部から流れて来た無法者とさえ、こうして上手くやっているわぁ、おちびちゃん一匹位、口移しでミルクをあげて、ちゃんと育ててみせるわぁ。」 ネワラに頬擦りをされて、白い子猫は小さい声で鳴いた。 淡い燭台の光、窓からの風。 「ふん、好きにするえ。」 軽い音を立てて、ラッサはグラスの中の葡萄酒を飲み干した。 メシャサの海から北へ十五里、ラッサジ川のほとり。   半月。  
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