第二十章

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3月は期末試験があり、その後は終業式まで暫く午前中授業が続く。 中学もどうやら殆ど同じスケジュールだそうだが、 スリヤは陸上部に入っていたため、帰りは決まって日が沈んでから。 一方僕は、部活こそ無いものの、生徒会の集まりがある日だけ夕方まで学校に居る。 それでも一番に帰宅することが多いため、家事の大半を僕が自然とすることになっていた。 今日は集まりが無いから、午前中の授業が終わり次第岐路につく。 真美も仕事が休みで家に居ると言っていたので、 クラスメイトにランチに誘われたのを断って、真っ直ぐに家へと向かった。 冷蔵庫に何かあったかな。 無かったらインスタントでもいい。 誰かと食卓を囲める方が、重要なのだ。 先週から気温も上がり、早咲きの桜がちらほらと咲き始めたていた。 入学式までは咲いていてくれ。 華の無い式は、もの悲しいだろうから。 町中の桜にそう祈る。 こんなにも美しい華なのに、儚げなのはどうしてだろう。 桜咲く季節というのが、出会いの季節でもあり、別れの季節でもあるからか、 それとも単純に桜の散りゆく姿が焼き付いているのだろうか。 風に煽られて一枚、また一枚と微かに散る花びらをみて、勿体ない、と呟いた。 帰宅すると真美はリビングに居た。 まだ少し眠たそうな顔をしているが、昨日寝室に入って行った服からは着替えている。 「どこか、出かけました?」 「スーパー行って買い物しといたよん。冷蔵庫見ておいてね。」 「ありがとうございます!」 ソファに寝そべりながら手でプラプラと合図を送ってくる。 僕は意気揚々と新しい食材を見にキッチンへと向かった。 春野菜が沢山、それに果物や乳製品… 流石医療従事者といった、バランスの良いチョイスだ。 野菜を眺めていると、さてこれらで何を作ってやろうかとわくわくしてきた。 そんな様子を見られたのか、真美が体勢はそのままに語りかける。 「…楽しそうね。」 「えっ、そうですか!?」 「とっても。何かいいものあった?」 「いいものだらけですよ、流石真美さん。昼ご飯、作りましょうか。」 よろしくーと、嬉しそうな声が聞こえた。 これだけで僕はまた生きる活力を補充できている気がする。 どんな些細な事でもいい、僕のすることで、誰かが喜んでくれるなら。 これ以上何を望めばいいのか。
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