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脚が進むまま走り続け、意識から完全に解離された体の動きで、僕は扉を強く開けた。
開けて勢いのまま倒れるように室内へ入る。
「…ツトム君!?」
机に向かっていた真美が音に気づき振り向く。
数歩踏み入れたところで失速し、がくがくとその場に倒れこんだ。
もう力は入らない。
荒く息をしながら床の冷たさをぼんやりと感じる。
真美が走り寄って僕の身体を揺さぶっている。
いつの間にか無意識で保健室に辿り着いていた。
あぁ、こうしてまた僕は、誰かに縋って生きようとしているのか。
全く、どうしようもない人間だな。
「ツトム君!?どうしたの?何があったの?」
「……真美、先生…っ、ごめ、…なさい…」
覆いかぶさるように僕を覗き込む真美は、不安そうな表情をしている。
こんな顔をしてくれ人が、まだ居たなんて。
僕は幸せ者だ。
そう、僕は幸せだから、もう僕のことは気にしないで。
君は充分僕に沢山のものをくれたんだよ。
だから大丈夫。
その分、目一杯君も幸せになっておくれ、ミツ。
運命なんて、本当にあるのかな。
未来はどうなるんだろう。
きっとミツは野球をずっと続けて、いずれ甲子園とやらに出て、プロの野球選手になるのだろう。
彼もそうなると信じて突き進んでいるし、そうなるに違いないと僕でさえ感じる。
じゃあ僕はどうしようかな。
僕には何ができるだろう。
君には何か僕の未来が見えていたのかな。
教えてくれていたのかな。
はっきりとは思い出せないけれど、
君が愛してくれた僕だ、
もう僕に不可能など、何もない。
僕は目を閉じた。
遠くからピアノの音と、小さな合唱が聞こえる。
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