第十八章

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夢を見た。 景色は白く靄がかかっているけれど、視界の中央はぼんやり淡く色づいている。 遠くから聞こえるのは言葉にならない群衆の騒ぎ声のような、歓声のような、良く分からない音。 僕はその音に柔らかく包まれながら、真っ直ぐ進む。 大地を踏みしめる感触はリアルだ。 一歩ずつ近づく場所は、何処かは分からない此処の、恐らく中心。 立ち止まり僕は顔を上げる。 そして自然と口を開き、腕を広げて歌を唄うのだ。 声が出ている感覚はあるが、自らの声は聞こえない。 ここで僕は、あぁ、これは夢だからと知ることができた。 何故僕は唄っている。 伸ばした腕には白い上質な洋服を纏っている。 顔にかかる髪は変わらず黄緑色である。 だからこれは、僕の中から見ている僕の夢。 微かな色彩の中で、僕の少し前にある何かが揺れる。 1人、また1人と僕を遠くから囲むように人が浮かび上がってきた。 はっきりと顔まで見えないが、皆僕を見て、佇んでいる。 群衆は更に後ろにいるはずだから、これが何であるのかはまた不明である。 揺らぎ現れる人々の中で、一つだけ焔のように赤い靄があった。 それも徐々に形を変えて人型になる。 だけど僕にはそれがなんであるか、それだけは分かった。 焔は縦に燃え上がるように伸びて、腕や足を形成する。 止めてくれ。 見たい、君に会いたい。 だけど見てはいけない。会いたくなってしまうから。 その場から逃げ去ろうにも、足は地面に吸い付いたようで微動だにできない。 そして僕は唄い続けていた。 焔は体幹を作り、首元まで人間に変化していく。 その姿は僕が知っているものよりも明らかに大きいシルエットで、 でも明らかに彼だった。 駄目だ。 意識の中で叫んだその時、遂に顔が現れようとして 僕は目を覚ました。
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