第十八章

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何故貴女がそうまでしてくれるのだ。 数百名いる生徒の中の一人である僕と、保健室の先生である真美の関係だ。 彼女が誰にでも優しく親切なのは当たり前なのに。 それが嬉しくて甘えていた自分が情けない。 特段関係のない僕のような一生徒を養うなんて、若い真美には負担でしかないはずなのに。 意味が分からない。 そしていつかはスリヤも一緒に暮らす? それができるなら夢のような話だけれども、 だって夢でしか有りえないようなことなんだから。 「…何でって、思ってる?」 目を合わせ、僕の意思を汲み取ったのだろうか。 真美は自嘲気味に笑う。 「…あたしにもわかんない。でも、君を守らなきゃいけない気がしたのよ。」 それじゃ理由にならないよ。 声にならない想いを目で訴えると、「そんなこともあるのよ」とまた真美が微笑んだ。 「動けない、喋れない貴方には反抗する術なんてないわ、ツトム君。」 手を解いて、僕の頭を数回優しく撫でた彼女はカーテンの外へと出て行った。 足音が遠ざかり、僕は完璧に孤立する。 身体も頭も酷く痛んで、重い。 鉛の塊のような両腕を挙げて、僕は両目を掌で覆った。 何て様だ。 また僕は、他人に支えられながら、生かされそうとしている。 でももしかしたらこの状況が極論なだけで、 何処に居たって人に甘えながらしか生きられないのかもしれない。 その事実を知るために、僕はここまでしてもらわなきゃいけなかっただけ。 ならば無様でも生きなければいけないのか。 甘えたって、泣き喚きながらだっていい。 生きてることに誇りを持って、生を歩むしか、 起こり往く全ての事象に還元できるものがない。 反抗するだけ無駄ということか。 僕には支えてくれる人が居る。友が居る。 これ以上何を望み、叶えてもらう必要がある? そして僕は決意した。 僕は生きる。気高く、誇り高く。 それは僕を生かした全ての人に感謝を示す術として。 誰にも干渉されない、僕の想いのままに生きる。 その先にはきっと、あの少年の人生が交錯する。 これは必然だ。 何故なら僕たちが信じた道に誤りなど無いのだから。
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