第十八章

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国中が同じ色に染められるなんて、何て素敵なことだろう。 早咲きの桜が風に煽られて散る中、また春がやってくる。 去年の春は、僕はまだ一人きりだった。 新しい制服は真美が買ってくれた。 僕が頼みに頼んでやっと古着を買うことに納得をしてくれた。 今までのブレザーではなく、漆黒の学ランというもの。 日本では昔から定番となっている制服だそうだが、 若干僕が着ると違和感があるのは否定できない。 仕事で初日に一緒に登校することはできないと言った真美は悲しそうだったが、 僕だって一人で歩けるようになったし、話せるまでにしっかりと回復した。 だから全然気にしないでと彼女をなだめて、 渋々それに納得してもらった形である。 1LDKのリビングのソファが僕のベッドになった。 スリヤを迎えるときにはもう少し広い部屋に引っ越そうと言ってくれている。 何の縁もない男女が共に暮らしていることを知って、驚かない人は居ないだろう。 だが、それがなんだ。 僕たちは後ろめたさなんて微塵も感じず、胸を張って生きている。 担任に案内されるがまま、新しい教室に足を踏み入れた。 40人ほどのクラス、メルタニン学園のあのクラスに比べると少し多い。 生徒達は一斉に僕の方を見て、驚愕した。 何故ならば髪の毛が黄緑色だから。 痣を見られたときは、皆どのような反応をするのだろうか。 想像しただけで笑い込み上げてくる。 人外の化け物だと拒絶されるか、 はたまた畏れをなして神と崇められるか。 なんだっていい。 この痣は今や僕の誇り。 僕が愛した男が、綺麗だと言ってくれた。 君が何時何処でも僕だと判ってくれるように、 替わることのないこの模様が目印になるだろう。 檀上に立つと、担任が僕の名前を黒板に書いた。 背に名前を負うようにして僕は大きく息を吸った。 「僕の名前は山本ツトム。貴方たちは今皆、僕の風貌を見て驚いているでしょう。 僕は普通じゃない、そう思っているでしょう。 だが残念ながら僕は只の人間です。 みなさんが知っていることを僕は知らない、ということが多いかもしれない。 だけどみなさんが持たないものを、僕が持っていることもある。 何も怖がらなくていい。 生きている人間だという事実が同じなら、大体は同じと言ったようなものだ。 どうぞ宜しく、仲良くしてくれたまえ。」
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