第十九章

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まだ何か物言いたげな担任を残し、失礼しますと僕は足早にその場を後にした。 まるで逃げ出すように。 駄目だ、これは、今の生き方に反するな。 頭の中では少しだけ後悔もしているが、気にしない。 再び生徒会室に戻ると、櫻井の他に数名生徒会の人間が集まっている。 掃除は終わったらしい。 各々、適当な位置に座って雑談を交わしているようだ。 「あ、会長。おかえりなさい。」 「ただいま。ごめんね。」 「どうしたんですか?呼び出し。」 「んーっと、…入学式のスピーチの、打ち合わせだって。」 彼らに気を使わせるのも忍びないので、僕は笑って嘘をついた。 歳を少しずつ重ねて、どんどん狡い人間になっていく気がする。 「不幸です」なんて顔をして生きて、心配されるよりずっとマシだろう。 その後短いミーティングを終えて、学校を後にした。 電車で乗り換えなしに数駅、駅を降りて5分程のどかな商店街を歩く。 この町に来てすぐは、町中の人が僕の姿を遠くから凝視していた。 4年も経つと顔見知りばかりになり、今度は顔を見るなり声を掛けられる。 決して若者が多くて活気づいているような通りではないが、 この地域の温もりのようなものに、僕はひどく安心していた。 商店街を抜けて、花屋の角を曲がる。 そうするともう通いなれたマンションが見えた。 真美は昨日夜勤だったため、今日は既に家に居るはずである。 家の扉を開けると奥から「おかえりー」と女性の声が聞こえた。 「ただいまー」 「ツートームー君ー!あんたさっき学校から電話かかってきたわよ!」 「えっ!?」 真美は晩御飯を作っていた。 自分の部屋に入る前にリビングへ向かうと、キッチンから凄い形相で睨まれる。 「進路!まぁだ就職希望とか言ってるんだってー?」 「だ、だって…真美さん、僕言ってるじゃないですか…」 テーブルの脇に鞄を置いて、彼女を手伝おうとキッチンへ向かうが手で追い払われた。 「はい、今日はあたし作るから!そこ座りなさい!」 「えぇ~…」 「全く、生返事しかしないと思ったら、勝手なこと書いて…」 こうなると彼女の勢いは止まらない。 保険医だった時に若干は気付いていたが、どうも芯が強すぎるタイプの人間らしい。
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