第十九章

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テーブルに広がる食卓、それらを囲んで3人で食事をとる。 食事が終われば、部屋に戻ることもあるし、 リビングでだらだらとテレビを観ることもある。 常に明るい室内。 音が流れる部屋。 あぁこれが、家庭という、ごく普通の日常風景なのかと、 僕は毎日のように、この瞬間をかみしめていた。 「スリヤー、貴方は大学までいっときなさいよー。」 「つーか俺まだ高校にも受かってないよ?」 「だって今くらいから洗脳しとかないと、兄のように頑固になっちゃったら困るんだもん。」 「おいおい、ちょっとちょっと、真美さん、僕を見捨てないで…」 僕の台詞に真美はまた可笑しそうに笑った。 僕らの関係はきっと複雑で、 まだどこかで、真美のことは保険医のイメージが抜けていないし、 だけど一緒に暮らし始めてからは、母のような、姉のような、 時々友人のような、そんな関わり方だった。 きっとスリヤも同様だろう。 メルタニン学園が閉校になる時、 彼女が、深い理由も無しに僕達兄弟を引き取ることを決めた。 あの時は意味も分からず、だが抗う手段も分からなくて、状況に従うしかなかった。 こうして暮らしていることは、明らかに真美の負担であるはずなのに、 心の底から感謝する気持ちを止めることはできない。 そうそれは、いつの日か理想に描いては諦めていた、 幸せと呼べる日々なのだ。
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