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誰かが聞いてくれるかな、
先に手を出したのは、ミツなんだよ。
僕は目を閉じた。
今は丁度日も傾いて、まだ少し涼しく感じる風が、窓から吹き抜ける。
空が、きれいな水色だよ。
もうすぐ、夏になる。
お前が僕に手を出した夏だ。
僕は忘れない。
小学校を卒業する数ヶ月前に、校長室に呼び出された。
中に入ると、笑顔の校長と、担任と、知らない大人が二人いた。
僕の親は、呼び出しても来なかったらしい。
まぁ、当然だろうと、対して驚きもしなかった。
「貴校の山本ツトム君の身体能力は、輝かしい将来の可能性を秘めています。
そこで、我が校が持つスポーツ特化クラスに是非、特待生として来ていただきたいと考えています。」
スーツを着た謎の男は言った。
特待生になると、私立校だが学費は一切取らないばかりか、
遠方から入学する場合は、卒業するまでの寮も用意してくれるらしい。
校長と担任は、僕の反応も見ずにただ嬉しそうにして、「ありがとうございます」と繰り返した。
正直なんの話をしているのかあまり分かっていなかった。
確かに体育のどの授業でも誰かに負けることはなかった。
それどころか、授業のテストでも、音楽でも図画工作でも、僕はいつも「優等生」という人間だったらしい。
だが人は僕に近づこうとしなかった。
それはきっと、
この色素が抜けて、緑色にも見える髪の毛か、
気味が悪い程大きくつり上がった目か、
身体中に時折浮かび上がる、痣か
とにかくどれかが原因だろう。
知っている、僕が醜い化け物だってことは、
誰より自分が知っている。
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