第一話

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細い山道がどんどん荒く、細くなっていく。 道とはもう呼べない砂利を踏み、両側を木々で囲まれた中を、 ボロボロのランドセルを背負って歩く。 僕の家は、山の中にあった。 学校の生徒たちが肝試しと称して、時折この辺りに忍び込んでくることも知っている。 年季の入った木造の平屋で、井戸が傍らにある。 そこは世間から隔離された世界だった。 「ただいま帰りました。」 「お帰り兄ちゃん!」 弟のスリヤが駆け寄ってきた。 二つ年下で四年生の少年は、僕と瓜二つで、でも少し違った。 きっとまだ屈託なく世界に接しているんだろう。 それは純粋で、汚れのない存在である。 「父さんはまだ帰ってないの?」 「うん、でももうすぐ帰ってくると思う。」 台所の鍋が湯気を吹いている。 米を炊いていてくれたらしい。 それを見てからスリヤの小さな頭をくしゃくしゃに撫でて、少し屈みこむように見つめた。 「なぁスリヤ、」 「なに?」 「もしも兄ちゃんが遠くに行ってしまっても、お前は大丈夫か?」 スリヤの表情はあまり変わらなかった。 理解できていないのだろう。 それでも、暫くの間を置いて彼は小さく頷いた。 「オレ、ご飯も作れるし、洗濯だって、背届くから大丈夫だよ。」 誇らしそうに言う姿に、涙が出そうになる。 「兄ちゃん、どっか行くの?」 「…もしかしたら、だけどな。」 瞬間、スリヤが哀しそうに眉毛を下げた。 「一生会えない訳じゃないさ、僕はずっと、お前の兄なんだから。」 俯いた弟に、どう接するべきかんがえていると 玄関の扉が開く音がした。 父が帰ってきた合図だ。
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