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細い山道がどんどん荒く、細くなっていく。
道とはもう呼べない砂利を踏み、両側を木々で囲まれた中を、
ボロボロのランドセルを背負って歩く。
僕の家は、山の中にあった。
学校の生徒たちが肝試しと称して、時折この辺りに忍び込んでくることも知っている。
年季の入った木造の平屋で、井戸が傍らにある。
そこは世間から隔離された世界だった。
「ただいま帰りました。」
「お帰り兄ちゃん!」
弟のスリヤが駆け寄ってきた。
二つ年下で四年生の少年は、僕と瓜二つで、でも少し違った。
きっとまだ屈託なく世界に接しているんだろう。
それは純粋で、汚れのない存在である。
「父さんはまだ帰ってないの?」
「うん、でももうすぐ帰ってくると思う。」
台所の鍋が湯気を吹いている。
米を炊いていてくれたらしい。
それを見てからスリヤの小さな頭をくしゃくしゃに撫でて、少し屈みこむように見つめた。
「なぁスリヤ、」
「なに?」
「もしも兄ちゃんが遠くに行ってしまっても、お前は大丈夫か?」
スリヤの表情はあまり変わらなかった。
理解できていないのだろう。
それでも、暫くの間を置いて彼は小さく頷いた。
「オレ、ご飯も作れるし、洗濯だって、背届くから大丈夫だよ。」
誇らしそうに言う姿に、涙が出そうになる。
「兄ちゃん、どっか行くの?」
「…もしかしたら、だけどな。」
瞬間、スリヤが哀しそうに眉毛を下げた。
「一生会えない訳じゃないさ、僕はずっと、お前の兄なんだから。」
俯いた弟に、どう接するべきかんがえていると
玄関の扉が開く音がした。
父が帰ってきた合図だ。
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