第一話

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「良かったじゃないか、お前が必要とされる場所があるなんて。」 僕が思っていたことそのまま、父が言った。 特待生の話を伝えた直後だった。 父は男の自分から見ても美しい人だった。 けれど僕は、そんな父よりも母に似ていた。 もうずっと前に、亡くなった母。 小さかった自分には、何故亡くなったのかはよくわからなくて、今もその謎を解き明かそうとは思えないでいる。 ただ記憶の隅にあるのは、 僕と同じ緑色の髪に、大きな瞳と、白い肌と、 乱れた服から覗いた、刺青のような痣の模様。 僕は母を、美しいと思っていた。 儚げで生気がないのに、神聖だった。 「スリヤはまだ四年生だから、流石に一緒に連れていくことはできそうにありません。 だから、僕が居なくなったら、彼のことをよろしくお願いします。」 「そうだな、勿論だ。」 父は盃を傾けながら、ちらりと僕を見る。 「あの女によく似たお前が視界に入らなくなるなら、こちらも大助かりだ。」 「…そうですか。」 「そうだ、そのお前の気味の悪い容姿、トカゲのようで、迷惑だった。世間様も街からお前が消えて有り難いだろうよ。」 「…はい。」 「…その態度から、何から何まで醜いな。あの女そっくりだ。あぁ、良い知らせをありがとうよ。」 空いた盃を掲げると、スリヤがなにも言わずに酒を継ぎ足した。 スリヤは父の面影を強く持っている。 だから僕ほどは拒絶されていなかった。 兄が父に罵倒されている様子なんて、見たくもないだろうし、見せたくもなかった。 だから目の前から消えようと思った。 それは逃げる、じゃない、 自分が消えることでみんなが幸せなら、そちらを選択したかった。 僕は開かれた道を歩くことになった。 持っていく荷物なんて何もない。 旅立ちの朝、目一杯スリヤを抱き締めた。 醜い僕に抱かれたスリヤが、汚れてしまうかもしれない でも、僕は抱き締めたかった。 弟は、強く抱き返してくれた。
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