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「…ベル」
誰かが自身を呼ぶ声が聞こえる。
目を開けてみると一人の少女がしゃがんでこちらの顔を覗き込んでいた。
クリーム色の胸まである髪はふわふわとゆるくパーマをかけたような質になっていて、黄緑色のくりっとした大きな瞳がこちらを見ている。
「わ!いきなり何?」
少女は驚く僕にしかめっ面を浮かべる。
「もー、何言ってるの!今日はサーカス団がディアで初めての演出をする記念の日だから一緒に見に行こうって約束してたじゃないっ」
「えっと…」
寝起きで機能していない頭を必死で起こし、その約束を思い出そうとした。
あー確かしてた気がする。
前日あたりに… 。
正直言うとこの約束を結んだ経緯にはいろいろとこちら側の主張もある。
このサーカスに関しては、僕的には興味が無かったのだが、彼女があまりにもしつこく誘うので仕方なく行くことになったのだ。
「そうだったね。じゃあいま用意するから行こうか」
一応約束は約束。
守らねばなるまい。
「早くねっ」
彼女はかなり強く僕に念を押して部屋を出ていった。
彼女はリリー。
本名はリリース・ニッケル。
僕とは幼ななじみの存在。
「ベル!まだー?」
「いま行くよ」
先ほど僕は椅子に座って机に伏せて眠っていた。
そのせいか首が痛いし、顔の所々に跡がついてしまっている。
「ベル!急がないと客席埋まっちゃうよ!」
「わかってるって」
リリーは相変わらずだ。
日常にある幸せは 失わなきゃ分からない
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