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「さ、こっちへおいで」
道化師(ピエロ)はリリーの手をとり、ステージへ上げる。
「わあ…」
リリーは不安そうに目の前におかれた水槽を見つめる。
そんな彼女に、道化師(ピエロ)は静かに耳元で囁いた。
「大丈夫だよ。僕が必ず脱出するから」
「え、あ…はい」
「…彼女には念のために酸素マスクをつけます。無論この私はマスクをつけません」
観客席からはおーという声がどよめく。
道化師(ピエロ)は余裕の表情で観客達に笑みを振り撒いた。
その間、周りのアシスタント達がリリーに酸素マスクをつけたり、スカートの下に白くふわふわしたショートパンツを履かせたりしている。
そして準備がすべて整ったあと、とうとうリリーを水槽の底に降ろし、両手へ手錠をつけた。
水の中にいるリリーと僕は目があった。
口には小さな白いスティック状の酸素マスクを横にくわえていて、呼吸をするたびに気泡が水の中に浮かんでいる。
リリーは僕を安心させようとしてにっこりと笑ってこちら側へ手を振っていた。
僕はリリーに手を振り返す。
リリーは自分が不安なときこそ笑う少女だ。
周りを心配させないため。
怖くないよ、平気だよ、と言っているように笑顔を見せる。
…本当は自分が一番怖いくせに。
「さ、準備が整った。僕も中へ入るとするよ」
道化師(ピエロ)が水槽の上の蓋を開き、中へはいる。
前もって底にいたアシスタントが、もう一つ手錠を用意して道化師(ピエロ)につける。
アシスタントが二人の手錠を引っ張る。
リリーが若干痛がっていたような表情を浮かべたが、その姿から手錠は完全に二人を繋いでいることが見てとれた。
アシスタントは上へ上がり、水槽の上の蓋からこちらへ戻る。
そして蓋には、鎖と南京錠がかけられた。
道化師(ピエロ)は苦しい表情を一切見せず、リリーと手を繋いで観客へ笑顔を向けた。
「It's show time!」
サーカス団の一人が我々観客席へそう言葉を言った。
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