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ラパンの雪下ろしはあっという間に終わり、河東は無言で長谷川の車を後にし、自分の車の雪下ろしへと作業を移した。
「河東さん、ありがとうございます!」
長谷川が積もる雪のなかそう叫ぶ。
雪の降りは激しくなり、視界も乏しい。
「あぁ」長谷川の礼に河東はそうつぶやくように返し、黙々と雪を下ろす。
そんな河東に長谷川はただじっと見ていた。
一方、一向に隣の車から開閉音がしないことに河東は不信に思い始めた。
もう、車の中は十分温まっているはず、現に河東の車のフロントには雪の積雪は感じられず、隅によけた雪がジワリと解けているのが見えていた。
あらかた自分の車の雪を落とし、後部座席に雪下ろしをブン投げ、河東は振り返った。
「なんだ」
不愉快な表情で隣の車の持ち主に問うと子供のように顔を明るくした。
「お礼を!!」
「たかが車の雪を下ろしただけでか、バカバカしい。」
ぴしゃりというとわかりやすそうに肩を落とす。
「…」
まるで自分が長谷川をいじめているようにしか見えない態度に河東はため息をついた。
「勝手にしろ」
最終的に白旗を上げたのは自分だった。
そう、それが長谷川から無期限でもあろうお礼返しの始まり…。
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河東はため息を再びついた。
「これは荷が重い」
白い紙袋を長谷川の下駄箱に納め河東は肩をがっくし落とした。
空の弁当箱の返答はいまだ「普通」のままなのも、河東の悩みになった。
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