佐伯の悩み

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佐伯は無心に走っていた。 身体の調子は良好、仕事も良好。地面はツルッツル。風は頬を容赦なく刺す。 走るスピードは一定に、リズムよく体が動き、そして目を覚まさせるようにゆっくり朝日が空を明るく染めはじめた。 早朝ランニング。 佐伯の日課…、ではなく、ただ単に思い立ったが吉日という神経で彼はその日早朝五時に起床し、走っている。だが、季節は冬の二月のはじめ。 いくら走っても身体が温まるのには時間がかかる。 佐伯はそれを苦にせずただ走っていた。 三十分ほど走った佐伯は近くのすたれた公園に足を踏み入れた。 一昨日降った雪はもう解けて、公園の土があちらこちらで顔を出している。 一昔前は雪の避難所とも化していた公園にはもう、当時の積雪の面影はない。 遊具も冬はあまり使用しない為かブランコは取り払われていた。 公園の入り口から数歩先に自動販売機があるのを佐伯は知っている。眼の前に赤いボックスが見えポケットから携帯を取り出した。 「またか…」 取り出した携帯はチカチカと光っている。 それを無視し自動販売機に携帯をかざし、缶コーヒーを購入した。 便利な世の中だと思って、手のひらに袖を手繰り寄せ缶コーヒーを取り出した。 熱い缶を両手で包みアパートへ帰る。 「あー、さみぃ」 空は白んで、それが自分の心模様に似ていて佐伯は仏頂面にそむけた。
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