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ここ最近母親の電話を無視していたつけが早朝の罵声…。
嘆息しか出ない。
朝からモヤモヤする休日の朝、じっとり掻いた汗を佐伯は流しに行った。
嫌なモヤモヤも含めて。
騒がしい音が耳をつんざす。目の前にはお馴染の「大工のケンさん」が真ん中の数字をカンナで削っている。
右手は捻りをやめて、真ん中のボタンと、画面の前上の吸い口を見る。銀の球が緩やかにカーブを描き、釘をスルスルと縫うように、まるでその吸い口に吸い込まれるように消えていく。
ケンさんのカンナは7に合わせてくれず、空振りを食らう。
ちっ、と舌打ちをしようものなら隣のいかついやーさんっぽい人間が睨んで、佐伯は席を離れた。
喧騒の中を縫い、最近のアイドルの台へと彼は移った。
流れる球と画面の一方で佐伯の頭はどこか別の方へ旅行中だ。
ケンさんの台がダメでも、アイドルの台がダメでも、彼の右手の動きはとても鈍く、スロットが回っても無駄打ちをして、早々に球を切らす。佐伯の懐は段々元なくなっていく。
「今日はダメだ」とつぶやき佐伯はパチンコ屋から出た。
空は曇天、今朝とはあまり変わらず、そして財布も曇天。
さえないばかりか、頭の中も曇天。
咥えたたばこに火をつけるもライターのオイルがかすかすで、これまた曇天。
今日二度目の嘆息をし、その場を後にした。
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