プロローグ いたって穏やかだった日のお話

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「知ってるよ。あいつに呼び出されて今日は学校に来たんだよ」 「そうか、お前も苦労してるなぁ」 屈託のない笑顔で肩をたたかれた。こいつ俺には鬱陶しい接し方なんだよな。 「まったくだよ。俺は平穏に暮らしたいっていうのに。じゃあな、隼」 そして、渋々女性のところへ向かうと 「遅い!」 思いっきり怒鳴られた。いくら騒がしいホームルーム前とはいってもこいつの声はよく響く。少しぐらい自重してほしいもんだ。 俺は人差し指で耳をふさいだ。 「うるせぇなぁ…。遅れたぐらいで騒ぐなよ」 「人間待ってる相手に遅れられたら怒ると思うけど」 「少なくとも俺は怒らんが」 「あんたは別でしょ。いろんなところが」 よくあるやり取りだ。こいつのどうでもいいところに対するツッコミに俺が反応する。もうかれこれ十年間ぐらいやっている気がする。 コイツの名前は露原明乃(つゆはらあけの)。世間一般でいう幼馴染というやつに該当する。 しかし残念ながらそういう属性に萌えなどを期待する輩に俺から言っておく。 コイツにそんなことを期待してはいけない、と。 確かに学校では同級生の友達・上級生や先生たちに対しては非常に穏やかな物腰で接するし、学力優秀だ。 だがしかし、俺に対する態度はどうかというと非常に高圧的である。 俺が少しミスをすると罵詈雑言を言うのは当たり前で、酷い時には何もにしていなかったり、俺が親切なことをしてやっても罵られる始末だ。 世の中ではよくツンデレツンデレと叫ばれているが、コイツのそれはツンデレでもなんでもない。ただの自己中心的な奴だ。9:1どころか10:0だ。 「で、暴虐武人なお嬢さんが今日は俺になんの御用ですか?」 「…いちいちムカつく言い方ね。それに、ここじゃなんだわ。放課後にしましょう」 「どこに行けばいいんだよ」 「三階の倉庫ね」 「なんであんな暗がりなんだよ」 「そんなことどうでもいいじゃない」 自分から呼び出しておいてこれだ。何一つ俺には教えない。まったくもって不快だ。 しかも今日俺は授業を受けにきたわけではないというのに、これだと授業を受けないといけないじゃないか。 「教科書は持ってきてないぞ」 「はぁ?そんなの知らないわよ、誰かに借りなさい」 …しょうがない、隼に借りるか。あいつ確か人に貸すためにわざわざ教科書を二冊ずつ持ってるからな。
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