PROLOGUE -序章-

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桜は正直な所、細く白い指先の、その一つを動かすのもしんどかったが、状況はそれを許しそうにない。 液晶画面を指が払って、アイコンをスライド。アプリケーション「Magic installer」を起動する。 「残り時間は――まだ二十分。出来たら白旗振りたいけど」 言葉が通じないのが問題だよ。 諦観する自分がないわけではなかった。けれど、まずはこの状況で出来ることを確認すべきだ。桜はアプリケーションのメニューから“Lib”と描かれたマイクスタンド型のアイコンを選択する。 『無事だったようですね、王子様』 携帯電話から響く機械調の音声に思わず苦笑する。 「その王子様って呼び方、止めてくれない?恥ずかしいんだけど」 『契約された貴方の名前は“王子桜(オウジサクラ)”ですので、問題ないと思いますが?』 「それはそうだけど――王子様はちょっと」 “男”が桜ってだけでも気が滅入るのに―― 語り聞かせながら、自分は何を言っているのかと呆れてしまう。相手は人間ではない。スマートフォン「Klang4S:クラング」に内蔵された自律型の人工知能だ。 名前を“Lib”と言う。
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